「バイアス」とは、私たちの考え方や判断に無意識のうちに影響を与えている思考のクセや偏りのことです。私たちは日常生活のほぼすべての場面でバイアスの影響を受けていると言われています。では、そんなバイアスにはどのようなものがあるのでしょうか?具体例やバイアスを減らす方法、バイアスの仕組みをまとめました。

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この記事は次のような人におすすめです!
- 意思決定のほとんどが影響を受けているという「バイアス」とはどんなものか知りたい
- 日常のなかに潜んでいるバイアスの種類を知りたい
- なぜ人間はバイアスに動かされやすいのか気になる
- 自分の意見をしっかり持てるようになりたい
- バイアスを使って相手に操作されてしまうのを避けたい
- バイアスから受ける影響を減らす方法を詳しく知りたい
職場や学校、友達同士など、この社会の中で生きている限り、人との関わりは必要不可欠ですよね。それゆえにどんな人でも、大なり小なり人間関係の悩みを抱えているのではないでしょうか。国内の発行部数が300万部を超える「嫌われる勇気」でも「すべての悩みは対人関係の悩みである」というアドラーの教えが出てきます。ここではそんな人間関係の悩みに関する情報をまとめています。より生きやすくなる手助けができれば嬉しいです!
バイアスとは?具体例を紹介

私たちは日々、多くの情報を処理していますが、そのすべてを正しく分析するのは難しいため、脳は簡単に判断できるようにショートカットを行います。これが「バイアス」です。
例えば…
「炭水化物は太る」と思い込んでいる人が、炭水化物を悪者扱いする記事ばかりを読み、逆に「炭水化物は重要」という意見を無視してしまうことがあります。
これは自分の考えを肯定する情報ばかりを集めてしまい、バランスの取れた判断が難しくなってしまう確証バイアスの影響です。

なんと、ある研究では、人間の意思決定の90%以上が、無意識のバイアスによって影響を受けていると言われています。
人間がこれほどバイアスに影響を受けるのはなぜ?

人間の脳は、膨大な情報を瞬時に処理し、出来るだけエネルギーを節約しながら、素早く、安全に意思決定を行うように進化してきました。そのため、バイアス(思考のクセ)が生まれやすくなっているのです。また、このバイアスは脳が効率よく生き延びるために最適化されるように進化の過程で備わったものだと言われています。そのため狩猟採集時代の環境が大きく関係しています。
迅速な判断が求められるから
狩猟採集時代では、獲物を見つけたらすぐに追う、危険を感じたら即座に逃げるなど、瞬時の判断が生死を分けました。そのため、「過去の経験」や「直感」に頼ることで、長く考えずに行動する必要があったのです。
例:茂みの中でガサガサ音がした→「危険だ!」と即逃げる(生存バイアス)
脳の負担を減らすため
私たちは膨大な情報に囲まれていますが、脳はすべてを平等に分析できません。そのため、脳は重要な情報だけを選ぶクセを持つようになりました。
例:仲間の言うことは信じる(内集団バイアス)
社会生活を円滑にするため
狩猟採集時代では集団での協力が生存に直結していました。そこで、グループ内の意見を優先したり、リーダーの言うことを信じる傾向(集団同調バイアス)が強くなったと考えられます。
例:「みんながやっているから自分のやろう」(バンドワゴン効果)
リスクを避けるため
不確実な状況下では、慎重になったり、過去の失敗を避けるために、悲観的なバイアス(損失回避バイアス)が働きます。これにより、危険を避けたり、確実なものを好む傾向が生まれました。
例:知らない食べ物は避ける(現状維持バイアス)
現代社会では「バイアス」が誤った判断を招くことも
現代の私たちのバイアスの多くは、狩猟採集時代の環境に適応するために形成されたものです。しかし、当時の環境と現代社会では大きく異なるため、デメリットを生んでしまうことがあります。
狩猟時代でバイアスが役に立った場面
- 危険をすぐ察知する→生存率アップ
- 仲間を信じる→チームワークの強化
- 知っているものを優先する→食中毒などのリスク回避
これが現代で発揮されると
現代では情報があふれ、環境も複雑になっています。そのため、バイアスによって以下のような問題が起こります。
- リスクを過大評価してしまう(生存バイアス)
上司の機嫌が悪いだけで「自分が悪いことをしたのかも」と過度に心配してしまう。 - 偏った情報に影響される(確証バイアス)
SNSで都合のいい情報ばかり信じてしまう。 - 変化を恐れる(現状維持バイアス)
新しいチャレンジができず、成長の機会を逃してしまう。
代表的なバイアスの例10選
1,確証バイアス
自分の信じたい情報だけ集め、反対意見や異なる情報を無視してしまうバイアス
例:「運命の相手だ」と思い込んでいると、相手の問題点を無視し、ポジティブな面ばかりを強調して考える。
- SNSのアルゴリズムにより、似た意見ばかり目にすることで思考の偏りが強まる(エコーチェンバー現象)
- 偏った情報が拡散され、フェイクニュースが信じられやすくなる
2,正常性バイアス

異常事態や危機を「大したことない」と思い込み、適切な対応を取らないバイアス
例:大雨や地震の警報が出ても「いつも通りだから」と避難しない。
- 災害時の避難が遅れ、大きな被害につながるリスクが高まる
- 感染症や健康リスクを軽視し、予防策を怠る傾向がある
3,アンカリング効果
最初に得た情報(数字や基準)に引っ張られ、その語の判断が偏るバイアス
例:「通常価格1万円」の商品がセールで5千円になっていると、お得に感じて購入してしまう。
- マーケティング手法として悪用され、消費者が本当に必要なものを見極めにくくなる
- 初期の誤った情報に基づいて、客観的な判断ができなくなる
4,現状維持バイアス
変化を避け、今のままが最善だと感じるバイアス
例:慣れた職場に不満があっても、転職をためらう。
- 新しいスキルや転職のチャンスを逃す
- 環境変化の適応できず、成長の機会を失う
5,後知恵バイアス
物事が起きた後に、「最初から分かっていた」と思い込むバイアス
例:投資に失敗した後、「この会社は最初から駄目だと思っていた」と言う。
- 過去の失敗から正しく学べず、次の意思決定を誤る
- 他人の失敗に対して過度に批判的になりやすい
6,選択肢過多バイアス
選択肢が多すぎると、決断が難しくなり、結局何も選べなくなるバイアス
例:レストランのメニューが多すぎて、選ぶのに時間がかかる。
- 意思決定に時間がかかり、ストレスや決断疲れが生じる
- 不満足な選択をしたと後悔しやすくなる
7,楽観バイアス
将来を楽観的に考えすぎ、リスクを過小評価してしまうバイアス
例:「自分は健康だから、病気にはならない」と思い、健康診断を受けない。
- リスク管理を怠り、問題が発生したときに準備不足に陥る
- 過度な楽観主義が、金融やビジネスで損失を招く
8,フレーミング効果
同じ内容の情報でも、提示の仕方によって受け取り方が変わるバイアス
例:「成功率90%」と言われると安心するが、「失敗率10%」と言われると不安になる。
- メディアや広告の表現によって、消費者が誤解しやすい
- 政治やビジネスでの情報操作の影響を受けやすくなる
9,内集団バイアス
自分が属しているグループを特別視し、他のグループを低く評価するバイアス
例:自分の出身地の人を贔屓し、他の地域の人を冷たくみる。
- 対立や偏見を生み、客観的な判断が難しくなる
- 多様性や異なる価値観を受け入れにくくなる
10,自己奉仕バイアス
成功は自分の努力のおかげ、失敗は他人や環境のせいにするバイアス
例:試験に合格したら「自分の努力」、不合格だと「問題が難しすぎた」と思う。
- 他人との関係が悪化しやすく、責任を回避する姿勢が生まれる
- 自己成長の機会を逃し、改善点に目を向けにくくなる
こんなものも?!意外なバイアス10選
1,IKEA効果
自分で手をかけたものに対して、実際以上の価値を感じるバイアス。組み立て式家具ブランドの「IKEA」にちなんで命名されました。
例:自分で組み立てたいケアの家具が、市販の高級家具より良いものと感じる。
2,ダニング=クルーガー効果
知識が少ない人ほど自意識過剰になり、逆に熟練者ほど自己評価が低くなるバイアス。きっかけは「レモン汁が透明インクとして使える」ことを知っていた男が、「レモン汁を顔に塗れば自分の顔が見えなくなるはずだ」と思い込み、実際に顔にレモン汁を塗って銀行強盗を行い、あっさり捕まってしまった事件です。
例:楽器を始めたばかりの初心者が「もうプロレベル」と思い込む一方で、ベテランは「まだまだ未熟」と考える
3,チアリーダー効果
人はグループにいると、個々が実際より魅力的に見えるバイアス。心理学研究に基づき、アメリカのドラマ「How I Met Your Mother」で広まりました。
例:友達と一緒にいると「みんなかわいい」と思われるが、一人だと印象が異なる。
4,クラッカー効果
空腹時に食べると、どんな食べ物でも美味しく感じるバイアス。科学的研究ではなく、日常観察から派生し、塩クラッカーの例えから名づけられました。
例:長時間の移動後に食べた普通のクラッカーが「人生最高においしい」と感じる。
5,ベビーフェイスバイアス
幼い顔立ちの人は「優しそう」「信頼できそう」と無意識に判断してしまうバイアス。赤ちゃんを守ろうとする人間の本能が影響しています。
例:丸顔で童顔の人が、職場で「親しみやすい」と思われ、評価が上がる。
6,ハチミツの罠
魅力的な外見の人からの提案やアドバイスを、無条件に信じてしまうバイアス。スパイが相手を誘惑して情報を引き出す手法から命名されました。
例:美人の営業スタッフが勧める商品を内容を詳しく確認せずに購入してしまう。
7,カラーバイアス
色によって、商品の価値や味を無意識に判断してしまうバイアス。赤は食欲を増進し、青は食欲を抑制するといった研究が背景にあります。
例:青い飲み物は「おいしくなさそう」と思うが、赤い飲み物は「甘くておいしそう」と感じる。
8,ゼイガルニック効果
未完了のここの方が記憶に残り、気になり続けるバイアス。心理学研究で発見されました。
例:途中までみたドラマが気になり、最後まで観るまで落ち着かない。
9,バーナム効果
誰にでも当てはまるようなあいまいで一般的な情報を、自分に特別当てはまると思い込んでしまうバイアス。アメリがの興行師P.T.バーナムの「誰にでも当てはまるものがある」という考えが由来です。
例:占いで「あなたは時に優柔不断だが、決断力がある」と言われて「まさに自分のことだ!」と納得する。
10,ピグマリオン効果
周囲からの期待を受けると、その期待に応えようと行動し、成果を出しやすくなるバイアス。ギリシャ神話の彫刻家ピグマリオンが自分の作品に恋をし、女神が命を吹き込んだという伝説が由来です。
バイアスの影響を減らす方法10個紹介!

1,自分のバイアスを「自覚」する
自分がどのようなバイアスに影響を受けやすいかを理解しましょう。「確証バイアス」や「アンカリング効果」などの影響を受けている場面がないか、普段の行動や考え方を振り返ってみましょう。自分の意見に「なぜそう考えるのか?」と問いかける習慣を作ると良いです。気づくだけでも、思考の偏りを減らす第一歩になります。
2,客観的なデータや異なる視点を取り入れる
物事を判断するときは、自分の考えに反する意見やデータにも目を向けてみましょう。ニュースや情報収集では、複数の異なるソース(新聞、ネット、論文など)を確認することを意識し、「他の人はどう思うか?」と意識的に他者の視点を取り入れましょう。多角的な視点を持つことで、偏った情報に惑わされにくくなります。
3,意思決定を急がない
衝動的な判断を避け、決断の前に「一晩考える」「別の機会に見直す」といった時間を設けましょう。高額な買い物や重要な決断をする前に、リストを作成して比較検討するなど、「なぜこの選択をしたのか」を言語化して説明できるかを確認しましょう。アンカリング効果や選択肢過多バイアスによる誤った判断を防ぐことができます。
4,デビルズ・アドボケイト(反対意見を持つ立場を演じてみる)
あえて「反対の立場」を想定し、なぜ自分の意見が間違っている可能性があるかを考えてみましょう。チームやグループでの議論では、誰かが反対意見を述べる役割を担って行うと、それまでは気が付かなかった問題点が見つかることもあります。「もし自分が〇〇だったら、どう考えるか?」と状況を変えて考える癖をつけることで、確証バイアスや内集団バイアスを減らし、バランスの取れた判断が可能になります。
5,思考のフレーミング(枠組み)を意識する
同じ情報を異なる表現で考えてみましょう。例えば、「成功率90%」と言われた際は、「失敗率10%」と比較することでネガティブな面とポジティブな面の両方を考慮して判断することができます。フレーミング効果による意思決定の偏りを防ぐことができます。
6,メタ認知を鍛える(自分の思考を客観視する)
日記や記録をつけ、自分の考え方や行動を振り返る習慣を付けましょう。誰かに自分の考えを説明し、客観的な意見を求めたり、瞑想やマインドフルネスを活用し、冷静に自分の思考の流れを観察するのもおすすめです。自己奉仕バイアスや現状維持バイアスに気付きやすくなります。
7,「少しの不安」を大切にする
「本当にこの決断でいいのか?」と自分に問い直す習慣を持ちましょう。成功だけでなく、リスクや失敗についても冷静も冷静に考えることが重要です。他人の視点を取り入れて、不安材料を客観的に分析してみましょう。自分の考えや気持ちを丁寧に聞いてくれるアプリを活用するのもおすすめです。楽観バイアスを防ぎ、より現実的なリスク管理が出来るようになります。
8,習慣化を利用してバイアスを減らす
意思決定のプロセスをルール化し、感情的な判断を避けましょう。買い物はリストを作成して衝動買いを減らすなど、重要な決断にはチェックリストを活用すると良いでしょう。バイアスによる影響を抑えた合理的な判断を習慣化することができます。
9,「知らないことがある」と認める
自分の知識に限界があることを意識し、専門家の意見を取り入れましょう。人間は「思い込み」が多い生き物です。調査や学習を続ける姿勢を持ちましょう。新しい知識を柔軟に受け入れるオープンマインドを心掛けることで、ダニング=クルーガー効果を防ぎ、正確な判断ができます。
10,「第三の目」で判断ミスを防ぐ
信頼できる人に意見を求め、自分の考えが偏っていないかチェックしてもらうのもおすすめです。専門家のアドバイスを受けたり、異なる価値観の人と話すことで新たな視点を得ることができます。確証バイアスや自己奉仕バイアスの影響を受けにくくなります。

バイアスを完全になくすことはできません。しかし、意識して対処することで、影響を最小限にすることは可能です。日常の中で「一歩引いて考える」習慣を持つことがコツです!
まとめ
私たちの日常にはたくさんのバイアスが潜んでおり、気が付かないうちに意思決定や判断に影響を与えています。バイアスにはたくさんの種類があること、何故こんなにもバイアスの影響をうけるのかを理解しておくことで、バイアスによる偏りが減り、正しい判断をすることができるようになります。

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